彼の手紙を盗み見る私 〜人間ポイントの世界で君を好きになる〜
「私たちの目標は学校での成績を上げること。そうすれば、特待生制度や奨学金制度が使えることもある。入試でいい点数を取れば、未来は逆転可能なんだから。私たちみたいな底辺の人間にとっても逆転次第で大成功できる社会だよ。だから、頑張り次第だよ、ね!!」
スラっとしているけれど、筋肉質なスタイル。贅沢をしていないせいなのか、痩せ気味な体。一瞬、抱きしめたら折れそうな気がする。でも、この人は、人間ポイント最下層で終わりになるような人じゃない。
「私なんかと一緒で大丈夫?」
「おまえこそ、俺と一緒でもいいのか?」
「露店の味って格別だから、少し食べたら帰ろう」
いつの間にか花火大会は終了し、露店がメインになっていた。メイン会場では盆踊りの音楽が鳴り響く。
「今度またどっか出かけたいな」
思わぬ発言にどきりとする。気まぐれ発言だとしてもすごくすごくうれしい。
彼の中に私という存在がちらりとでもいたのならば、とても嬉しい。
ふとした瞬間に私のことを考えてくれるだけでうれしい。
なんでこんなに好きなんだろう。理由なんてわからないよ。
あまりにも突然の提案に、勝手に恥ずかしくなってしまう。
「今日から、私たち、逆転人生歩まない? 人間ポイントを高くするために、あらゆる工夫をするの」
「逆転人生なんてかっこいいな。意外と策士だな」
「男女が交際すると勉強時間が減るからポイントが減るんだって。でもさ、結婚したら、ポイントが増えるんだって。国の未来のために家族を作る意思があるからってことらしいよ」
「じゃあ、結婚すっか?」
「何言ってるの?」
思わぬ発言に絶句する。絶対に冗談とわかっていても絶句する。仕方ないよね。だって、彼には好きな人がいるし、そもそも結婚できる年齢じゃないじゃない。
「冗談だよ。でも、少子化を食い止めるために結婚年齢が下がるという話もあるから、高校生でも結婚は可能かもしれないな。俺みたいな貧乏ワケアリの男と結婚する人はいないけどな」
「そんなことないよ!! きっといる!!」
意外と熱く言ってしまった。
錬磨は苦笑いだ。
でも、私は結構、かなりこの人が好きだと思う。人間ポイントとか家柄とか学力とかそういう物差し以外で人間性が好きなんだ。
「おまえさぁ。人の応援とかばっかだよな。今日だって友達の代理だろ。自分を持ってないっていうかさ。おまえは好きな人とかいないのか?」
「別に……いないよ」
この一言を言うのに口を動かすのにどんなに辛い気持ちだったのか、こいつにはわからないだろう。結婚提案のあとに、好きな人がいないのか、とか自分を持っていないとか全否定された気持ちだった。浮かれた自分が損をしたみたいだ。
「自分を持っていないというのは、わかっている」
「まぁ、やれるだけやってみるか。残り半年で最難関の高校に合格したら、俺には学力優秀ポイントが入る。それで、学費は賄える。将来がだいぶ変化するよな」
「最難関じゃなくてもこの地区のトップ5に入る高校に入ることができたら、今がほぼ最下位な私と錬磨君ならば、今の学力から向上したという学力向上ポイントが加味されるよね。この国で行方不明者って年間すごい数いるんだって。何万人とかだよ」
「やっぱり、人間ポイントカードのポイントが低い人間が、鬼神の生贄にされているのかもしれないな。あながち嘘じゃないような気もする。ネットなんかにも鬼神が祭られていたといわれる神社が全国にあると書いてあるし、今でも鬼神が存在していてもおかしくない。生物の一種なんだろ。そして、俺たちより少数だけれど強い力を持ち、この世界で共存している」
「この祭りも元をたどると鬼神様を祀る祭りだったみたいだよ」
「鬼神ってなんなんだろうな。昔の絵巻に書いてあったのは、鬼の顔をした神様で、人間を取って食べるような様子だよな」
「祭りにはきっと意味があるんだよ。ただ、楽しむためじゃなくて、魂を弔うとかそういうことなんだと思う。花火にも意味があるのかもしれない」
若干小さくなった甘いつやつやの真っ赤な飴を錬磨君の唇に押し付けるふりをする。それを舐めるふりをする。その動作に私はつい、りんご飴並みに真っ赤になってしまう。私が舐めた飴を何も思わず舐めようとするなんて。間接キスみたいじゃない。慌ててりんご飴を引っ込めて、神社の奥に歩いて行く。人は少ない。
「この神社は鬼神を祀ったものなんだね」
由来が書いてある。夏に祭りを行うようになったのも生贄となった者に感謝をするためだと書いてある。この国はだいぶ前から、鬼神に纏わり憑かれているのだろう。彼らは人を喰らう。そうでなければ、死んでしまうと書かれている。
「現代、生贄制度なんて人権問題よ。だから、人間ポイントカードを導入して、能力を可視化できるようにしたのかな。有能な人間しか生きられない世界なんておかしいよ。でこぼこでも、優秀じゃなくても生きているだけでいいのに。役に立ちそうもない人でも、きっと何か役に立つこともあると思う。数字で能力を測るなんておかしいよ」
「でもさ、入試だって、資格試験だって点数で合否が決まるだろ。数字が全てじゃないっていうのはきれいごとかもしれない。就職試験ならばコネ次第ってこともあるけどさ」
スラっとしているけれど、筋肉質なスタイル。贅沢をしていないせいなのか、痩せ気味な体。一瞬、抱きしめたら折れそうな気がする。でも、この人は、人間ポイント最下層で終わりになるような人じゃない。
「私なんかと一緒で大丈夫?」
「おまえこそ、俺と一緒でもいいのか?」
「露店の味って格別だから、少し食べたら帰ろう」
いつの間にか花火大会は終了し、露店がメインになっていた。メイン会場では盆踊りの音楽が鳴り響く。
「今度またどっか出かけたいな」
思わぬ発言にどきりとする。気まぐれ発言だとしてもすごくすごくうれしい。
彼の中に私という存在がちらりとでもいたのならば、とても嬉しい。
ふとした瞬間に私のことを考えてくれるだけでうれしい。
なんでこんなに好きなんだろう。理由なんてわからないよ。
あまりにも突然の提案に、勝手に恥ずかしくなってしまう。
「今日から、私たち、逆転人生歩まない? 人間ポイントを高くするために、あらゆる工夫をするの」
「逆転人生なんてかっこいいな。意外と策士だな」
「男女が交際すると勉強時間が減るからポイントが減るんだって。でもさ、結婚したら、ポイントが増えるんだって。国の未来のために家族を作る意思があるからってことらしいよ」
「じゃあ、結婚すっか?」
「何言ってるの?」
思わぬ発言に絶句する。絶対に冗談とわかっていても絶句する。仕方ないよね。だって、彼には好きな人がいるし、そもそも結婚できる年齢じゃないじゃない。
「冗談だよ。でも、少子化を食い止めるために結婚年齢が下がるという話もあるから、高校生でも結婚は可能かもしれないな。俺みたいな貧乏ワケアリの男と結婚する人はいないけどな」
「そんなことないよ!! きっといる!!」
意外と熱く言ってしまった。
錬磨は苦笑いだ。
でも、私は結構、かなりこの人が好きだと思う。人間ポイントとか家柄とか学力とかそういう物差し以外で人間性が好きなんだ。
「おまえさぁ。人の応援とかばっかだよな。今日だって友達の代理だろ。自分を持ってないっていうかさ。おまえは好きな人とかいないのか?」
「別に……いないよ」
この一言を言うのに口を動かすのにどんなに辛い気持ちだったのか、こいつにはわからないだろう。結婚提案のあとに、好きな人がいないのか、とか自分を持っていないとか全否定された気持ちだった。浮かれた自分が損をしたみたいだ。
「自分を持っていないというのは、わかっている」
「まぁ、やれるだけやってみるか。残り半年で最難関の高校に合格したら、俺には学力優秀ポイントが入る。それで、学費は賄える。将来がだいぶ変化するよな」
「最難関じゃなくてもこの地区のトップ5に入る高校に入ることができたら、今がほぼ最下位な私と錬磨君ならば、今の学力から向上したという学力向上ポイントが加味されるよね。この国で行方不明者って年間すごい数いるんだって。何万人とかだよ」
「やっぱり、人間ポイントカードのポイントが低い人間が、鬼神の生贄にされているのかもしれないな。あながち嘘じゃないような気もする。ネットなんかにも鬼神が祭られていたといわれる神社が全国にあると書いてあるし、今でも鬼神が存在していてもおかしくない。生物の一種なんだろ。そして、俺たちより少数だけれど強い力を持ち、この世界で共存している」
「この祭りも元をたどると鬼神様を祀る祭りだったみたいだよ」
「鬼神ってなんなんだろうな。昔の絵巻に書いてあったのは、鬼の顔をした神様で、人間を取って食べるような様子だよな」
「祭りにはきっと意味があるんだよ。ただ、楽しむためじゃなくて、魂を弔うとかそういうことなんだと思う。花火にも意味があるのかもしれない」
若干小さくなった甘いつやつやの真っ赤な飴を錬磨君の唇に押し付けるふりをする。それを舐めるふりをする。その動作に私はつい、りんご飴並みに真っ赤になってしまう。私が舐めた飴を何も思わず舐めようとするなんて。間接キスみたいじゃない。慌ててりんご飴を引っ込めて、神社の奥に歩いて行く。人は少ない。
「この神社は鬼神を祀ったものなんだね」
由来が書いてある。夏に祭りを行うようになったのも生贄となった者に感謝をするためだと書いてある。この国はだいぶ前から、鬼神に纏わり憑かれているのだろう。彼らは人を喰らう。そうでなければ、死んでしまうと書かれている。
「現代、生贄制度なんて人権問題よ。だから、人間ポイントカードを導入して、能力を可視化できるようにしたのかな。有能な人間しか生きられない世界なんておかしいよ。でこぼこでも、優秀じゃなくても生きているだけでいいのに。役に立ちそうもない人でも、きっと何か役に立つこともあると思う。数字で能力を測るなんておかしいよ」
「でもさ、入試だって、資格試験だって点数で合否が決まるだろ。数字が全てじゃないっていうのはきれいごとかもしれない。就職試験ならばコネ次第ってこともあるけどさ」