隠れお嬢様と敏腕上司の㊙恋愛事情
いつもなら電車で通勤するのだが、今日は病み上がりということもあって父さんの車に同乗し会社まで送ってもらうことになった。
父さんの車とは言ってもそれは高井商事の用意した社長送迎用の車で、私は父さんと共に後部座席に並んだ。

「桃は、そんなに見合いが嫌なのか?」
「そりゃあまあ。でも、ちゃんとお見合いはするわ」

車が走り出してしばらくしたころ父さんに聞かれ、私は曖昧に答える。
正直乗り気かと聞かれれば、そうではない。
でも、私の立場からすれば仕方ないのかなというのが素直な思いだ。

「相手は近藤代議士の縁戚にあたる人物だ。どうやら事情があるようで今まで表舞台に出てくることがなかったが、近い将来近藤代議士の地盤を継いで国政に進出するだろうと言われている。私も会ったことはないが、優秀な人間らしい」
「そう」

近藤代議士と言えば、総理大臣選のたびに名前の出てくる大物政治家。
その縁者ってことはやはりお坊ちゃんで、一条家の相手として申し分ないってこと。
近藤代議士とおじいさまは昔から懇意にしていると聞いたことがあるし、私はまだ直接お目にかかったことは無いけれど政界のドンなんて言われるくらいだから怖い人なのかな。
そう思うと少しだけ気が重くなった。
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