隠れお嬢様と敏腕上司の㊙恋愛事情

「桃」
立ち上がり車のキーを持ったまま私を見る隼人。

「まだ、帰りたくない」
私は座ったまま答えた。

父さんが心配してくれていることも、私のわがままなのもわかっている。
でも、今日は隼人と話がしたかった。
だって、もしかしたらこうして会えるのも今日が最後になるかもしれないのに。

「桃、今日は帰った方がいい。話は今度改めよう」
私の前まで戻って来た隼人が、膝をつき同じ目線で話しかける。

そんな事を言っていたら話せないうちにお見合いの日を迎えてしまいそうな気がする。
そうすれば隼人とこうして会うことはできなくなる。
だから、

「うぅっ」
感情が高ぶったからだろうか、急に気持ち悪くなった。
何も食べていないはずの胃から込み上げるすっぱいもの。
ムカムカして、気持ち悪くて、ヤダ吐きそう。

「ごめんなさい」
私はトイレに向かって走り出した。