隠れお嬢様と敏腕上司の㊙恋愛事情
桃の生い立ち
「おかえり、桃」
「ただいま、お母さん」

電車を乗り継いで家に帰ったのは午後８時。
父はまだ帰宅しておらず母が私を出迎えてくれた。

「あーあ、疲れた」
玄関から廊下を進み、リビングのソファーに体を沈めながら声が出た。

「お疲れ様。お仕事忙しかったの？」

いつも優しくて怒ったことのない母は、私が何を言っても受け入れてくれる。

「なんかもう、仕事に行くのが嫌になったわ」

もちろん本心で辞めたいと思っているわけではない。
仕事を辞めれば隼人にも会えなくなるし、私自身働くことも今の仕事も好きだ。
でも、川村唯のような人間とうまくやっていくのには疲れるし、今日のように一生懸命に働いたほうが非難されることにも我慢できない。

「私は桃がしたいようにすればいいと思うのよ。でも・・・」
言いにくそうに母の言葉が止まった。

「わかっています。お父さんの前では言いません」

もし父の前で仕事が嫌だなんて言えば、すぐにお見合いの話を持ち出されてしまう。
何しろ父さんはもうすぐ２６歳になる私に結婚をさせようと必死なのだから。
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