隠れお嬢様と敏腕上司の㊙恋愛事情
「一条家の工事もそろそろだろ？」

１０時過ぎに帰宅した父が、母の用意したお茶漬けを食べながら、リビングでくつろぐ私に話しかけてきた。

「そうらしいわね」

都心の一等地に広大な敷地を有する一条家では、これまでおじいさまだけが住んでいたお屋敷を2世帯住宅にリフォーム中なのだ。
これも、今まで寂しい思いをしてきたお兄ちゃんとおじいさまを一緒に過ごさせたいとの望愛さんの発案らしい。

「近いうちに桃を連れて顔を出してほしいと、創介君からの伝言だ」
「へえー」

創介君っていうのはお兄ちゃんのこと。
同じ職場にいて顔を合わせることもあるのに、なんでわざわざ父さんに言うのかなって思わなくもないが、きっと私に言っても無駄だと判断したのね。

「今週末でいいか？」
「え、ええ」

そもそも住んだ記憶のない家だから私には思い入れはない。けれど、「生まれた家には違いないから姿を変える前に一度遊びに来て」と望愛さんから誘われていた。
仕方ない、父さんを巻き込まれたのでは断ることもできないな。
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