隠れお嬢様と敏腕上司の㊙恋愛事情
社長就任パーティー
「桃ちゃーん」
廊下の先から手を振りながら駆けて来るのは兄嫁の望愛さん。
私は振り返ったまま歩みを止めた。
「望愛さん、走っていいんですか?」
「あっ」
口を押え、慌ててあたりをキョロキョロする。
「大丈夫ですよ、誰も見ていませんから」
「本当?」
「ええ」
それでも表情を曇らせたままの望愛さんが、少しかわいそうになるのは私だけだろうか。
元々お兄ちゃんの専属秘書をしていた望愛さんは、半年前に入籍したばかりの新婚さんで、妊娠三カ月の妊婦さんでもある。
ごく平凡な一般家庭から一条財閥の本家に嫁ぐのは少なからず勇気がいることだったと思う。当然生活環境だって一変するはずで、周囲の視線が気になるのも仕方がない。
「あまり周りの目を気にしない方がいいですよ」
一条の血を引いていることをひた隠しにしている私が言えた義理ではないけれど、財閥に対する世間の目は意外に厳しい。
どんな小さなことでも話題になるし、良かれ悪しかれ人の口に上ってしまうことも避けられない。それをいちいち気にしていたのでは正直身が持たないだろう。
「わかってはいるんだけれど、なかなか慣れなくてね」
望愛さんは肩を落とす。
「言いたい人には言わせておけばいいんですよ。お兄ちゃんも私も望愛さんの味方ですから」
「ありがとう、桃ちゃん」
少しだけ表情が明るくなって、望愛さんが笑った。
廊下の先から手を振りながら駆けて来るのは兄嫁の望愛さん。
私は振り返ったまま歩みを止めた。
「望愛さん、走っていいんですか?」
「あっ」
口を押え、慌ててあたりをキョロキョロする。
「大丈夫ですよ、誰も見ていませんから」
「本当?」
「ええ」
それでも表情を曇らせたままの望愛さんが、少しかわいそうになるのは私だけだろうか。
元々お兄ちゃんの専属秘書をしていた望愛さんは、半年前に入籍したばかりの新婚さんで、妊娠三カ月の妊婦さんでもある。
ごく平凡な一般家庭から一条財閥の本家に嫁ぐのは少なからず勇気がいることだったと思う。当然生活環境だって一変するはずで、周囲の視線が気になるのも仕方がない。
「あまり周りの目を気にしない方がいいですよ」
一条の血を引いていることをひた隠しにしている私が言えた義理ではないけれど、財閥に対する世間の目は意外に厳しい。
どんな小さなことでも話題になるし、良かれ悪しかれ人の口に上ってしまうことも避けられない。それをいちいち気にしていたのでは正直身が持たないだろう。
「わかってはいるんだけれど、なかなか慣れなくてね」
望愛さんは肩を落とす。
「言いたい人には言わせておけばいいんですよ。お兄ちゃんも私も望愛さんの味方ですから」
「ありがとう、桃ちゃん」
少しだけ表情が明るくなって、望愛さんが笑った。