隠れお嬢様と敏腕上司の㊙恋愛事情
「今は隼人がいるからお前がわがままを言ってもフォローしてくれるが、隼人がいなくなったらお前はどうするつもりだ？」
「どうするっていわれても」
完全に説教口調になったお兄ちゃんに腹が立って、私はプイと顔をそむけた。

「後輩をいじめるような真似をしても、誰もかばってくれないぞ」
「わかって、って言うか、私は後輩をいじめたりしません」
「そうか？」

きっとお兄ちゃんは川村唯のことを言いたいんだろうけれど、それなら私にだって言い分はある。

「隼人だって、いつまでの今のままってわけにはいかないんだぞ」
「え？」

お兄ちゃんは隼人に頼りすぎるなって意味で言ったのだろうけれど、私には隼人がどこかにいなくなる予定があるように聞こえた。
もしそうなら・・・

「もしかして、谷口課長に異動の話でもあるの？」
聞かずにはいられなかった。

「異動と言えば、異動かな」

フフフと含み笑いを浮かべるお兄ちゃんの意図がわからず、私は首を傾げる。

そもそも社内で私の素性を知っているのは、直属の上司である隼人と一条家と親交がある取締役のみで、他の人たちは私のことを高井商事の娘だと信じている。
もちろん一条家の人間だからと暴虐武人に振る舞っているつもりは無いが、もともとの性格上キツイ印象を持たれることは多いし、そこを隼人が上手にフォローしてくれているのも知っている。

「遠くに、行くの？」
私は震える声でお兄ちゃんに尋ねた。

「まだわからない。すべては隼人の気持ち次第だ」
「そう」

どうやら事情がありそうだなと感じたけれど、私にはそれ以上聞けなかった。
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