隠れお嬢様と敏腕上司の㊙恋愛事情
「職場では私の素性をバラさないでくださいね」
「え?」
意味が分からないって、優也さんの表情。

本来なら一条家の人間だって事をわざわざ隠す必要はないのかもしれない。
私のようにコソコソする人間の方がおかしいのだろうと思ったりもするけれど、今はまだこの生活を手放したくは無い。
そのためには、優也さんにも口止めする必要がある。

「事情を全て説明すると長くなるので省きますが、私は高井桃で、高井家の娘です。生物学的に一条の血を引いているのは事実ですが、だからと言って一条の人間として生きていくつもりはありません。私は普通に行きたいんです。だから、私のことは黙っていてください」
お願いしますと私は頭を下げた。

「一条家の令嬢だってことが、そんなに嫌?」

やはり優也さんには理解できないらしい。

「そうね、今はまだ高井桃でいたいから」
「そうなんだ」

よほど私の言葉が真剣に聞こえたのか優也さんはすんなり承知してくれて、それ以上深く聞こうとはしなかった。
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