隠れお嬢様と敏腕上司の㊙恋愛事情
何か思い悩んだ時に、ひたすら走りたくなったり、歌いたくなったり、絵をかきたくなるという友人達がいた。
そういうこだわりのようなものを全く持たない私は、一人グチグチと文句を言って耐えるしかなかった。
でも今日ここに来て、何かに打ち込んでストレスを発散する人の気持ちが初めて分かった。

「桃ちゃん、そこは右だ。あっ、左足はもう少し上に・・・ああ」

ドンッ。
あああ、また半分までで落ちてしまった。

初めからうまくいくとは思っていなかったし、実際最初は数十センチ上るので精一杯だったけれど、頑張っていくうちにコツをつかみ壁の真ん中くらいまでは登れるようになった。

「桃ちゃん、無理しなくていいから休憩しながらやるんだよ」
「はい」

あんなにやる気がなかったはずなのに、やってみるとクライミングは楽しくて、ついつい夢中になっていった。
少しづつ上達するのが面白いし、体を動かし汗をかくのも気持ちいい。
そして何より、悩んでいることを忘れて目の前の壁に集中する時間が楽しかった。

「どう、楽しいだろ?」
「ええ、とっても」
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