隠れお嬢様と敏腕上司の㊙恋愛事情
「桃、抱きしめてもいいか?」
「う、うん」

ギュッ。

潔癖症でいつもシャワーを浴びてからしか抱きしめることもしない隼人にしては珍しく、帰ってきた格好のまま背中からハグしてきた。

「どうしたの?」
今日はいつもの隼人と違う。

「桃こそどうした?異動のこともあったからもっと怒っているのかと思ったのに」
「私はそんな怒りんぼうじゃない」
プイ。
私が顔を背けると、一旦背中から体を離した隼人が私の前に回り込み再び抱きしめた。

「そんな顔、俺にしか見せるんじゃないぞ」
「えっ?」

きっと、子供じゃないんだから感情を表に出し過ぎるなってことなのだろう。
望愛さんのように穏やかで優しい女性でいろって意味かもしれないけれど、隼人に言われるとなぜかむかつく。

「やっぱり、今日は帰るわ」
「なんで?」
「だって、今日はそんな気にならないでしょ?」

隼人も疲れているみたいだし、私もそんな気分ではない。

「別にそのためだけに俺たち会っているわけじゃあ・・・」
「他に何があるのよ」

私だって、普段ならもっと優しい言い方をした。
本来ならこんなに語気強く言う必要はなかったかもしれないけれど、隼人の言動に勝手に憤っていた私はかわいくない態度になってしまった。
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