隠れお嬢様と敏腕上司の㊙恋愛事情
車に乗り込んだものの無言の車内。
不機嫌そうな顔で運転する隼人は、明らかにいつもとは様子が違う。

「ねえ、何かあったの?」

私の言動にかわいげがなかったのは認めるけれど、それはいつものこと。
職場で少し険悪な空気になったが、あのくらいは今までだってあった。
私には、今隼人が不機嫌になっている理由がわからない。

「桃は、田口君と知り合いだったのか?」

え?

「知り合いって言うか、週末に一条邸に行った時に優也さんもいて、おじいさまから紹介されたの」
「ふーん」

あれ、なぜ今優也さんの話になるの?

「優也さんがどうかしたの?」
「いや、以前からの知り合いなら仕方がないが、職場でいきなり名前呼びはどうだろう。ある程度の節度は必要だと思うがな」

真っすぐに前を見たまま顔色一つ変えずに話す隼人がいつも職場で見せる上司の顔をしているようで、私にはおもしろくなかった。

「それを言うなら隼人だって、川村唯は隼人を狙っているらしいからちゃんと気を付けてちょうだいね」

売り言葉に買い言葉。
つい勢いで言う必要のないことまで言ってしまった。
そして、こういう時はあとで後悔することが多い。

「その言葉はどんな立場での発言だ?」
「え?えっと・・・」

部下として、ではない。
友人とも、違う。
恋人は、ありえない。
私は隼人の何なのだろう。
どうやら私は自分で墓穴を掘ったらしい。

「ごめんなさい、失言でした。忘れてください」

それっきり私は口を閉ざし、隼人も黙ってしまった。
険悪な空気のまましばらく車を走らせ、家から少し離れた路地で降ろしてもらった私は逃げるように自宅に向かった。
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