隠れお嬢様と敏腕上司の㊙恋愛事情
「ったく、勝手に消えるなよ」
どうやら探し回っていたらしい隼人の息がきれていて、珍しくお兄ちゃんに対する口調もため口になっている。

「どうした、何かあったのか?」
「何かじゃない。この時間はゲストとの挨拶にとってあるって、朝話をしただろう」
「ああ、そうだったな」

悪びれる素振りも見せず笑っているお兄ちゃんと、ムッとした表情を引っ込めて秘書の顔に戻った隼人を、私は交互に見つめた。
2人とも身長は180センチ超えで、イケメンに違いはない。
ワイルドで目を引くお兄ちゃんも、端正な顔立ちの隼人も、女子の間ではかなり人気がある。しかし、その立ち位置はかなり違う。
一条財閥の御曹司であるお兄ちゃんはどちらかというと見ているだけの遠い存在で、気軽に声をかける勇気ある女子は多くない。一方、一条プリンスホテルの秘書課長である隼人はそのソフトな物腰のせいでよく声をかけられる。
きっと、それだけ隼人の方が身近な存在ってことだろう。

「隼人さん、ごめんなさいね。私が勝手にいなくなったから、創介さんが探しに来てくれたのよ」

だからお兄ちゃんを怒らないでと、望愛さんは言いたいようだ。
でも勝手に探しに来たのはお兄ちゃんで望愛さんが頼んだことではないのに、やっぱり望愛さんは優しいな。

「とにかく戻ろう、お客様がお待ちだ」
さすがに望愛さんに文句を言うことができない隼人は、お兄ちゃんを促して歩き出した。
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