隠れお嬢様と敏腕上司の㊙恋愛事情
特別な存在 side隼人
何か言いたそうな顔をしながら桃はシャワールームに消えていった。

まあ、俺だって桃の言いたいことがわからないわけではない。
普通のサラリーマンだと思っていたのにいきなりこんなマンションへ連れてこられたら、そりゃあ不安にだってなるだろう。
それをしつこく聞いてこないのがまた、桃らしくもあるが。

「はあー」
ベッドから出てキッチンに向かい、冷蔵庫から取り出した炭酸水を流し込み息をついた。

昨日の夜はずいぶん桃に無理をさせた。
普段強気な桃の姿とベッドの中とのギャップにやられてしまって、つい激しく求めてしまった。
自分でもなんて性格の悪い男なんだと呆れるけれど、これも桃の前でだけ。それだけ桃は俺にとって特別な存在なんだ。

ピコン。
メッセージの受信。

送り主は見なくたってわかっている。
この一ヶ月、毎日必ずこの時間にメッセージを送ってきた人物は一人しかいない。
もちろんその要件もわかっているのだが、今はまだ読む気にも返信する気にもならない。

ピコン。
ん?
今度は俺のスマホじゃない。

見るとテーブルの上に残された桃のスマホのようだ。
決して覗くつもりではないが、気になって近づいた。

『桃、今日は早く帰って来なさいね』
映し出されたメッセージは桃のお母さんからのようだ。

そう言えば一昨日も遅かったし、お母さんはきっと心配なさっているのだろう。
原因を作った俺としては申し訳ない気持ちしかない。
今日は何としても早く帰らせてやらないといけないな。
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