夜を照らす月影のように#7
「……小説とかで、異世界転生ものってあるでしょ?」

僕が突然問いかけると、カズは「あるが……それは、秘密とは関係ねぇだろ?」と言う。

「ううん、実は関係あるんだよ……僕とノワールは、別の世界からこの世界に転生したんだ。前世の記憶を持って」

僕は、そう言ってゆっくりと話す。前世で暮らしてた世界のこと、前世で僕とノワールは幼なじみだったこと、さっきオズワルドさんが話してた言語が、前世で僕とノワールが使っていた言語であることを。

皆は驚いていたけど、すぐに信じてくれたようで、僕は安心する。

「……前世のメルは、どんな感じだったの?」

リオンが問いかけてくる。僕は、少し考えると口を開いた。

「僕の前世は、決して幸せだったと胸を張って言える人生じゃなかった。もちろん、小さな幸せはあったけど……僕の前世の家庭はね、暴言が当たり前だった。よく両親から言われたよ。『お前に、生きる価値はない』ってね……この世界に転生してから、皆にとっての当たり前が、こんなにも温かくて幸せなことなんだなって知ったんだ」

「……」

僕が口を閉ざすと、周りは静まり返る。空気は重たくて、僕はその場から逃げたくなってしまった。

「……メルさん。先生のことも、教えて」

その沈黙を破ったのは、エリカだった。
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