新くんはファーストキスを奪いたい
体育館が近づくと、ボールの跳ねる音とシューズの底が床を擦る音が交互に聞こえてきた。
北斗の姿を見るまであと少しと思った鞠が、前髪を整えて館内を覗き込む。
やはりバスケ部の練習が始まっていて、体育館の半分を使用していた。
しかし見慣れた北斗の姿がどこにもなくて、首を傾げた鞠に気づいた気さくそうな先輩部員が、走り寄ってきた。
「誰か探してる?」
「あ、はい! 一年の、西原北斗はいますか?」
「あ〜北斗ならさっき爪かけちゃって、部室に向かったよ」
「そうですか、ありがとうございます」
先輩部員は微笑みながら親切に居場所を教えてくれて、丁寧にお辞儀をした鞠が来た廊下を引き返す。
そして今度は、場所の知らないバスケ部の部室を探す事に。
はやる気持ちが、鞠の冷静さを欠いていく。
(早く、誰かのものになる前に……!)
いつまでも幼馴染でいることを望んでいない鞠から、きちんと想いを伝えなくては。
今すぐ告白したい衝動が不安と共に押し寄せてきて、廊下を小走りしながら北斗を探す。
そしてようやく“バスケ部”と表記された部室を見つけた。
が、ドアがきちんと閉じられておらず、鞠が疑問に思いながら押すと音のないまま少し開いた。
その隙間から部室内を覗いた時、見慣れた北斗のジャージ姿の背中があって呼びかけようとした時。
もう一人、北斗の目の前に首からホイッスルをぶら下げた女の子の姿が確認できた。
すると北斗の両手が彼女の肩を掴み、ゆっくりと上体を倒した北斗は、鞠の知らない女の子とキスを交わした。