新くんはファーストキスを奪いたい
梨田の言っていた通り、一日中降り続いた雨は翌日朝には止んでいた。
道路に残る水たまりには、清々しいほどの快晴が反射して映し出されている。
しかし、登校時間を過ぎた今、鞠がいたのは自分の部屋のベッドの上。
額には冷却ジェルをペタリと貼り、氷枕を頭の下に敷く。
ピピッと体温計が鳴って表示された数字を確認すると、深いため息が出た。
「38……」
学校への欠席連絡は出勤前の母が既にしてくれていたから。
一人自宅で大人しく横になり、布団を被っている鞠。
雨上がりの空は気持ち良いくらいに綺麗だろうな、と想像しながら静かな部屋を見渡すと。
あまりの無音空間に孤独感に襲われる。
このままでは気分が滅入ってしまいそうだから、音楽でも流そうと枕元のスマホに手を伸ばした。
すると、眠っている間に届いた新着メッセージが数件表示されていて。
横になりながら確認する鞠。
出席確認の際に鞠の欠席を知った恭平と梨田から、体調を心配するメッセージ。
ただ、二人よりも前の時間に受信していたのは、毎朝欠かさず送られていた新のメッセージ。
【おはよ。今日の練習楽しみだね】
熱を出して欠席することを知らず、クレープ作りの練習を楽しみにしてくれていた新。
だけどそれは、もう叶わない。
なんて返事をしたら良いのかも、わからない。
(いや、謝ればいいだけなんだけど……)
そう思って文字入力を始めてみるが、鞠の打つ“ごめんね”が薄っぺらい言葉に感じた。
本当に打ちたい文字は、本心は。新にたくさんの事を尋ねたい言葉だったから。