新くんはファーストキスを奪いたい



(手切れのキスって何? 今もしてるの? 振った子に?)



 しかし、そんなこと聞けるはずもない。
 新の返答は、鞠が信じたくなくてもそれが真実になってしまうから怖い。

 全てのメッセージに返信することなく、音楽の再生もやめてスマホを元あった位置に戻した鞠は布団を頭まで被った。


 高校生活が始まってもうすぐ三ヶ月が経とうとしている中、既に新へ告白した女の子を数名知っている。

 入学一週間後には、あの他クラスのゆるふわな可愛らしい子。
 そして美化委員のゴミ拾い中に会った、紗耶という子。

 あれほどモテる新のことだから、他にもきっと鞠の知らないところで告白はされているだろう。

 だとしたら、その中で手切れのキスを交わした人がいるのかもしれない。



(……わからない、だってキスって……)



 好きな人とするもの。だから、ファーストキスは好きな人と心を通わせ合ってしたいと願っていた鞠。

 言葉で伝えるのが恥ずかしくても、喧嘩してしまうことがあっても。
 恋人とキスを交わせば、それだけで相手の“好き”が伝わって、同じように与えてあげられると思っていた。



(でも、新くんは……違う)



 やっと確信したばかりの恋する相手は、好きでもない子とキスができる人。

 ふとした時にみせる笑顔も、囁く声も好き。
 抱きしめられた時に聞こえる心臓の音も、優しく包み込む温かい手も好きなのに。



(……無理だよ)



 自分を好きだと告白したあの唇が、他の女の子の唇と重なったことを想像したら。
 息ができないくらいに胸が押しつぶされて、昨日の雨のように涙が流れた。

 そして――。


 私のファーストキスは、新に奪われてはいけない。

 砂と化して崩れていく心の中で、鞠はそんなふうに答えを導き出した。


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