新くんはファーストキスを奪いたい



「というわけで、学祭当日のゴミ設置場所のチェックをお願いしたいの」
「わ、わかりました……」



 学祭の準備中に、急遽連れ出された二人は、一年生の教室と同じ階にある講義室前にいた。

 佐渡委員長の話によると、学祭当日は普段使用していない講義室前と、他にも校内にいくつかゴミ箱を設置するらしい。

 そこで一年一組の美化委員には、この箇所のゴミ箱が満杯になっていたら、袋を新しいものに取り替えて欲しいという仕事を課せられた。



「自分のクラスの仕事もあって忙しいだろうけど、二人で協力し合ってね」
「あ、はい」
「じゃあよろしくねー」



 立ち去る佐渡委員長の気遣いに眉を下げて返事をした鞠だったが、正直困惑していた。

 なるべく関わらないように、目を合わせないように。
 でも話さなければいけない場面では、笑顔を作って当たり障りなくやり過ごす。

 そうやって、新とただのクラスメイトだった頃に戻れたらと思っていたから。
 二人きりになる機会がある美化委員の活動は、今の鞠にとって少し避けたい案件だった。

 でも、そうも言っていられないと腹を括って、新に声をかける。



「明日は新くん校内回って忙しいし美化委員の仕事は私一人でやっておくよ」
「俺はただ歩き回るだけだし、客引き抜けて美化委員やれるよ」
「でもほら、新くんいないと客引き担当のみんな困るから」



 鞠の一つ一つの台詞は、どこか自分を遠ざけるよう仕向けている気がして、新の表情が曇った。
 少しでも鞠と過ごす時間を確保したい自分の想いが、鞠には届いていないのかと。



「なんでそういうこと言うの?」
「……え」
「美化委員の活動時間は……」
「新くん?」
「俺の、唯一の」

キーンコーン……



 すると新の声を遮るように四時間目終了のチャイムが鳴り響き、これから昼休みの時間へと突入した。

 廊下が騒がしくなり、鞠が人目を気にして新から離れようとした時。
 その片腕をグンと掴まれて、無人の講義室へと吸い込まれた。


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