新くんはファーストキスを奪いたい
「あ、三石さんだ!」
すると、その中の一人の男子が鞠に気づいて声をかけてきたので、鞠は思わず身構えてしまった。
ただ、客引き担当のクラスメイトは何やら困惑した様子で、慌てて鞠に近づいてくる。
「なあ、新と果歩見かけなかった?」
「え、見てないけど……」
「ちょっと目を離した隙に二人とはぐれちゃったんだよ」
おかげで一旦宣伝を中断しているという、新と果歩以外のクラスメイト。
そんな今の状況を説明されたのち、教室に戻っていくクラスメイトらの後ろ姿を、無言で見送った鞠。
「は、苺。急がなきゃ……」
本来の使命を思い出し、調理室へと小走りで向かう。
しかし、その間に脳内を支配していたのは、なぜ二人だけが消えてしまったのか。
たまたま、本当にはぐれてしまったのかもしれない。だけど、はぐれたと見せかけることもできる気がした。
そんなこと、考えたくもないけれど――。
(……何処で、何してるんだろ……)
調理室前で足を止めた鞠は、自分以外の女の子と二人きりで過ごしているらしい新を想像して。
ひどく胸を痛めていることを実感した。
あの柔らかく微笑む表情も優しい声も、自分だけに向けられていたものだったのに。
それはもう約束されないものになった。
毎朝送られていた新からのメッセージが、今朝初めて途絶えてしまったから。