新くんはファーストキスを奪いたい
同じ頃、二組の北斗とその彼女でありバスケ部マネージャーの唯子は、校舎の裏庭に向かって歩いていた。
「今日、外部の人も結構きてたよな」
「そうだね。うちの学祭って毎年人気らしいよ」
「そうなんだ、なんで?」
「出店が本格的だし入場制限ないし、二日目は芸人さんのトークショーとライブあるし?」
バスケ部はこの日、入場者の整備を任されていて。
先輩に「パイロンの追加分持ってきて」と頼まれた二人は、それを取りに行く途中だった。
「そういえば鞠ちゃん元気?」
「え⁉︎」
「最近会わなくて。ほら、学祭準備で合同体育もなかったから」
「あ、ああ……」
何となく鞠が気になって出た唯子のセリフに、北斗の心臓はドキリと跳ね挙動不審にさせた。
雨の日、幼馴染だと思っていた鞠の体を、一度だけ抱き締めた北斗。
未だにその行動の意味は解明できていないが、彼女の唯子に後ろめたい気持ちだけが今でもずっと残っている。
だけど、その一件をまだ話せていないのは、狡いとわかっていても唯子のことが好きだから。
この想いだけは、間違いないから――。
(あれから、俺も鞠と顔合わせていない……)
学祭準備で日々忙しく、地元が一緒なのに乗車する電車も被らない。
避けられても当然だけど新の“噂”を知った今、鞠はどうするつもりなのか聞き出せていないから。
心配と言えば心配な北斗は、急に口数が少なくなった。
その時、裏庭に近付くと誰かの話し声が聞こえてきて、北斗と唯子は足を止め互いを見合う。
すぐそばにあった茂みに隠れて静かに裏庭を覗くと、そこには合同体育で面識のある一組の果歩と新が向かい合い立っていた。