新くんはファーストキスを奪いたい
「ごめんね新、ここまできてもらって」
「別に。それより話って何?」
学祭で賑わう声を遠くに感じるこの裏庭へ、果歩が新を連れてきたというところまでは理解できた二人。
そして、これから果歩が何を話そうとしているのか。
聞き耳を立てる唯子も、普段は鈍い北斗さえも大体の想像がついていた。
「気づいてるかもだけど、私……新のこと、好きなんだよね」
「……ありがとう」
「友達としてじゃないよ? 男の子として、だよ?」
「うん、わかってる」
「じゃあ、新も……!」
恥じらいながら告白する果歩の表情に、パッと笑顔が咲いた。
好意に対して感謝の意を述べた新は、自分と同じ想いかもしれないという期待が高まったから。
だけど新の声は一定のトーンのまま、言葉が続けられた。
「ありがたいけど、気持ちには応えられない。ごめん」
「……そ、そっか」
「うん……」
告白現場、それも果歩の失恋現場を目撃してしまった北斗と唯子が、少し気まずそうに俯いた。
何より、新のモテぶりが中学の頃から変わっていなくて、今ので累計何人を振ったのか数えるのも大変そうだと思っていた唯子。
そして振られた果歩の心情を思うと、実は覗いていたなんて絶対に言えない。
早く新と果歩に裏庭を去ってほしいと強く願っていると、振られて落ち込んでいるはずの果歩が笑顔で言い放った。
「わかった……じゃあ最後に、キスして」
「は……?」
そうして徐々に新との距離を詰める果歩に、新は咄嗟にその肩を掴んで停止させる。
しかし、果歩の積極的な行動は止められなくて、新の首に両腕を絡めてきた。
「キスしてくれたら諦めるよ」
「そんなこと、できるわけ」
「嘘、今まで振った子にキスだけしてきたんでしょ?」
「なにそれ」
「みんな言ってたよ。振られたけど勝ち誇ったように自慢してた」
みんなとは、過去に新に告白をして振られた女の子達のことだろう。
やはり噂は本当だったと、北斗は沸々と怒りが込み上げた。