新くんはファーストキスを奪いたい



 裏ではそんなことをしていながら、幼馴染の鞠に近づき思わせぶりな行為を繰り返した新が、ますます嫌いになる。

 しかし、新と同じ中学だった唯子は心配そうに、だけど何か疑うように二人を見守っていた。



「みんなにキスして、私にできないなんて話ないよね?」
「……果歩」
「新が中学の時からこんなことしてるって噂聞いて、初めはびっくりしたけど……」



 そう言って、新の唇目掛けて背伸びをした果歩は、振られたにもかかわらず満足そうに口角を上げる。



「キスできた思い出作れるなら、振られても損無しだよね〜」



 まるで新は自分を受け入れると確信したような行動。
 果歩はゆっくり瞼を閉じて、離れたところに潜む唯子は眉根を寄せたその時。



「ふむう⁉︎」



 寄せられた唇を手のひらで覆った新が、無表情のまま果歩のことを見下ろしていた。

 その行動は、今まで聞いてきた新の噂を立証するものではなくて、北斗も唯子も驚愕する。

 ただ、二人の存在をまだ知らない新は、果歩だけを見つめて訴えた。



「俺、そんなふうに思われてたんだ?」
「んん⁉︎」
「今までの女子が告白の最後に“キスして”ってお願いしてきたのは、それが理由?」
「んー⁉︎」
「確かに。中学の頃初めて告白された時、先輩に迫られたことがあったけど……」



 新は三年前の記憶を蘇らせて、これ以上間違った情報が流れないように。
 その時の状況をしっかりと果歩に伝える。



「その先輩にも、今の果歩と同じことしてる」
「ふへ……?」
「だから俺が“振った子にキスしてる”って話は、嘘だよ」



 すると、新の手を振り払いやっと話せるようになった果歩が、焦りを交えて反論してきた。


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