新くんはファーストキスを奪いたい
「まさか、だって振られた子みんな口を揃えて“キスした”って」
「嘘つきが複数人集まれば、そっちが真実になるの怖すぎるよな」
「で、でも……!」
未だに信じようとしない果歩に、新もこれ以上何をどう伝えたら良いかわからなくなった。
だけど、果歩の気持ちは受け取れないこと。キスももちろんできないことだけははっきりしているから。
新は果歩に向かって、深々と頭を下げた。
「ごめん……できない」
「っ……!」
ダメ押しともなる“ごめん”を目の当たりにした果歩は、顔を真っ赤にして言葉を詰まらせた。
告白が失敗に終わっただけでなく、噂を信じてキスだけはできると思っていたのに。
それすらも断られた自分はこれから、新に振られたけどキスをしたという嘘つき達に、どう話すべきなのか。
頭の中が混乱して収まりが利かなくなった果歩は、新をその場に残して逃げるように立ち去ってしまった。
(逃げたいのは俺の方なんだけどな……)
あらぬ噂を立てられ、それに嫌悪感を抱くどころか寄ってくる女子達の心理が全くわからない。
どっと疲労感を覚えた新が深いため息を漏らした時、茂みに隠れる北斗と唯子の姿に気づいた。
「うわ、悪趣味すぎ」
「あはは……ごめんね。聞くつもりはなかったんだけど……」
そう弁明しながら立ち上がった唯子に続いて、神妙な面持ちの北斗も姿を現すが。
新を誤解していたことによる自分の過ちが、ぐるぐると頭の中を駆け巡る。
その後ろめたさを抱えていたから、新の顔を直視することができずにいた。
すると突然、唯子が新に向かって頭を下げる。
「新、ごめん!」
「え?」
「私、ずっと新のこと誤解してた……」
同じ中学出身の唯子は、新のその噂をもうずっと耳にしていた。
そして噂は唯子の中で徐々に真実のように取り扱われて、新へのイメージを悪化させていく。
だから、最近新と仲の良い鞠を心配して、余計なことを言いそうにもなった。