新くんはファーストキスを奪いたい
「中学の頃から女子の間でキスの噂はあったし、振られた子が揃って同じこと言うから疑わなかった」
「でも俺は……」
「わかってる。今の新の行動見て、嘘つきは誰かちゃんと理解した……」
「そ、ならよかった」
意外とあっさりした返答が返ってきて、頭を上げた唯子が今度は心配そうに新を見る。
自分にとって迷惑になる噂をされて、ありもしない嘘をつかれて。
それでいて何故そんな冷静でいられるのか、唯子は疑問に思った。
「もっと怒んないの?」
「何で? 唯子は信じてくれたじゃん」
「いやでも、さっきの果歩って子もキスしたって嘘流すかもよ?」
「それはわかんないけど、大丈夫だと思う」
「あのねぇ、女もプライドってもんがあるのよ。キスされてないなんて自分を下げる証言するわけないじゃん」
「そうなの?」
冷静という言葉ではなく、呑気というべきだった。
唯子が額を押さえてため息をつくと、その隣にスッと並んだ北斗が、気まずいオーラを放ちながら新に声をかける。
「あんたは、本当にしてないんだよな」
「だからそう言って」
「……俺、話しちゃったんだ噂のこと……鞠に」
「っ……」
その時、北斗の告白を聞いた新は顔色を急変させた。
しかし、噂の存在も内容も鞠に話したという北斗に対して、怒りを露わにしたのは。
本人の新ではなく唯子の方だった。
「はあ⁉︎ 鞠ちゃんに言っちゃったの⁉︎」
「う、うん……」
「な……鞠ちゃんは知らないままでいることを選んだのに、なんでそれを北斗が」
「一条に遊ばれていると思って、だから心配で……」
噂に翻弄されて、真実でないことを鞠に伝えてしまった、あの雨の日。
自分の軽はずみな行動と思い込みが、心配していたはずの鞠を無駄に傷つけた。
今ようやく、頑なに唯子が新の噂を北斗に教えなかった理由がわかった気がした。