新くんはファーストキスを奪いたい



 学祭一日目の、各クラスの出店は午後三時までと決まっていた。

 残り二時間という頃に、絶えず賑わう一組のクレープ屋さん。
 しかし、調理室から苺を持って戻ってきた鞠の様子がおかしくて、調理中のミスが頻発していた。



「三石さん、休んできたら?」
「だ、大丈夫だよ。ごめんね間違い多くて」
「ううん、それはいいんだけど……」
「ほら、休憩行ってるメンバー戻るまでは私たちだけで回さないとね」



 だから休んでもいられないと笑顔を浮かべて作業を進める鞠に、梨田も複雑な心境を抱える。

 そこへ、新と二人で姿を眩ませていた果歩が教室に戻ってきたらしく、パーテーションの近くで何やら友人と内緒話をはじめた。

 しかしその会話はもちろん、作業中の鞠と梨田の耳にも届くことになってしまう。



「ねえ、どうだった? 告ったんでしょ?」
「でもあっさり振られちゃったわ」
「マジか、まあでも想定内だよね」
「うん、新に気がないことはわかってたし」



 新と果歩が別行動をした理由は、果歩が新に告白する場面を作るためだったらしい。
 そして今、果歩は新に振られたことを盗み聞いてしまった鞠。

 果歩の告白を断ったことに対して、本来は安堵するべきなのに。
 あの疑惑のせい、振られた先に待っているキスの件で、鞠の心がますます不安定になる。



「で、新にキスしてもらったの〜?」
(……⁉︎)


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