新くんはファーストキスを奪いたい
それが当たり前の会話として繰り出されることに、驚くというよりも思考が停止していく鞠。
振られてしまった果歩という当事者から発せられる台詞は、どんな噂よりも効力が高いはずだから。
緊張と不安に駆られて、自分が今何をしようとしていたのかもわからなくなった時。
「あ、三石さん危ないよ!」
「⁉︎」
梨田の声にびくりと反応した鞠だったが、それよりも前にクレープ焼き器の側面に左手の甲が触れてしまった。
約二百度に設定されていた鉄板は、少し触れただけの鞠の手の甲に赤く傷を残す。
「うそ、大丈夫⁉︎」
「っだ……大丈夫! 大したことないよ」
本当は少しヒリヒリと痛みが走るも、鞠は無理に笑ってみせる。
そこへ梨田の声に気づいた接客中の恭平が様子を見ようと、パーテーションの外から顔を出現させた。
そして鞠の火傷を確認すると、案の定慌てふためく。
「鞠ちゃん! え、え、どうしたらいいの⁉︎」
「早く冷やしに行った方がいいよ!」
「本当に大丈夫、それに今抜けたら調理する人梨田さんだけになっちゃう……」
自分がこの場を離れることに抵抗があった鞠は、心配する二人を何度も「大丈夫」と宥めた。
ぼーっとしてしまった自分の過失で、二人にもクラスにも迷惑をかけたくない一心で――。
「鞠‼︎」