新くんはファーストキスを奪いたい



「大丈夫?」
「ッ⁉︎」



 鞠の背後から聞こえてきたのは、優しく澄み切った声。
 聞き覚えがあった鞠は、今自分の後ろにいるのが先ほど告白に呼び出されていた新だとわかった。

 しかし、今振り向いて顔を合わせたら、自分の泣きっ面を晒す事になる。
 そう思った鞠は急いでしゃがみ込み、床に落としてしまった教科書をかき集めた。

 その視界から僅かに確認できる、新の足元。
 ただこれ以上顔は上げられないと思った鞠が「大丈夫、です……」と掠れ声で呟くと。

 拾うのを手伝おうとしてその場に突然屈んだ新と、パチっと視線を合わせてしまった。



「っ……!」
「え、涙……」



 不意に鞠の泣きっ面を目撃した新が、明らかに驚愕している。

 こんな醜い姿、誰にも見られたくないのに。
 よりによって同じクラスのイケメンに知られてしまったショックが失恋並みに大きくて。

 拾った教科書を抱えたまま急いで外靴を履いた鞠は、何も言わず逃げるようにその場を立ち去った。



「……?」



 あまりに突然の事に、身動き一つできすにその背中を見送った新だったが。
 視線を伏せた時に、おそらく鞠の物であろう落とし物に気づいた。



「メモ帳?」



 新が見つけたその花柄のメモ帳は、鞠にとってとても大事な。
 そしてとても恥ずかしい告白方法と願望内容が書かれていたのだが。

 大事なメモ帳を落としているなんて気づきもしない鞠は、教科書を抱えたまま息を切らして校門を潜った。



(絶対に感じ悪かったよ私! 明日どんな顔して一条くんに会えばいいの〜⁉︎)



 幼馴染への失恋に始まり、クラスメイトのイケメンにグチャグチャの泣き顔を晒してしまった。

 今日は何だかツイていないことばかり起きる気がして、鞠の心はズタボロとなる。


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