新くんはファーストキスを奪いたい
そして聞こえてきたのは、まるで芸能人を目撃した時のような驚きの甲高い声。
「うそ! 新がクレープ作ってる⁉︎」
「マジで⁉︎ なんで⁉︎」
「やだかっこいい、ギャップやば……」
廊下で興奮気味な女子生徒たちが、ドア窓を覗き込み作業中の新を眺めている。
人だかりをかき分けて鞠と梨田が教室に帰ってくると、教室後ろの調理場パーテーションが何故か取り払われていた。
そのおかげで教室の外からも席に着くお客さんからも、手際よく幾つもクレープを作っていくサロンエプロン姿の新が丸見え。
イケメンが甘くて可愛いフォルムのクレープを真剣に作る光景は、周りの人間を普段以上に虜にしていき。
やがて教室の外にできたのが、この群集であった。
すると、接客中の恭平が二人に気づいて駆け寄ってくる。
「鞠ちゃん! 左手大丈夫だった?」
「うん、大したことないって。心配かけてごめんね」
「はあ〜良かった」
「それよりこの混雑は……」
手当てのため少し教室を離れた間に、今日一番の混み具合を目の当たりにした鞠が恭平に尋ねた。
ニヤリと笑みを浮かべた恭平は、新の方に視線を向けながら事情を説明する。
「せっかく新が作ってくれんなら、それを大々的に公開した方が話題になると思って」
「え?」
「パーテーション撤去したら案の定、この大反響!」
どうやらこの状況は、恭平の作戦が成功したことによるものらしい。
得意げに腕を組んでみせた時、戻ってきた鞠に気づいて忙しい手をわざわざ止めた新が、こちらに向かってくる。
その姿に、鞠は心地良いくらいの胸の締め付けを覚えた。
「鞠! 火傷の具合は?」
「うん、痕は残らないだろうって……」
「そっか、良かった」
やっと安心できて新の表情が思いのほか柔らかく変化すると、鞠の鼓動も徐々に昂る。
視線が合う度、声を聞く度にときめくこの心臓はいつも制御不能に陥ってしまい、しばらくは収まらない。
(こんなふうにドキドキするのは、新くんだけ……)
改めて自分の素直な気持ちを確認した鞠は、胸を押さえてそれを充分に噛み締めた。