新くんはファーストキスを奪いたい
それでも、今どうしても伝えたい言葉があった鞠は震える唇を懸命に動かす。
「新くん、のことを。す、好き……になりました」
「っ……」
「だから、う、奪ってください。私の……」
人生に一度しか経験できない、大好きな人と交わしたい鞠のファーストキス。
それがこの瞬間にようやく、新だけに許された。
すると突然、鞠の体がふわりと優しく包み込まれて、新の体温が分け与えられる。
「わ、新く……?」
「……ありがとう。やっと聞けた、ずっと待ってたその言葉」
「ご、ごめん」
「いいよ、今人生で一番嬉しいから」
「っ……(人生で一番なんだ……)」
腕の中にすっぷりとおさまった鞠は、新の心音と体温を感じながらも。
不慣れな手つきで、そっと背中に腕を回した。
その行動に気づいた新が、更に鞠を強く抱きしめて耳元でそっと囁く。
「本当にいいんだよね?」
「え……?」
「するよ? 今、キス」
「ッ……う、うん」
耳にかかる吐息が熱くて、眩暈を覚えそうになる鞠は小さく頷いた。
そうして互いの顔を見合った時、鞠は顔のみならず耳まで真っ赤に染まり、生理的に瞳が潤んでいて。
こんな表情を今自分がさせているんだと考えると、新の心臓も加速していく一方。
あの日、鞠の秘密のメモ帳を拾わなければ、中身を確認しなければ。
ここまで夢中になるなんてことは、もう少し遅かったかもしれないし、鞠と関わることさえもなかったかもしれない。