新くんはファーストキスを奪いたい



 だけど、ファーストキスに憧れを抱える鞠の純真な心が、新の興味を駆り立てたのは事実。

 次第に、そんな鞠に想われる男が羨ましいとさえ思うようになって。
 想われる男というポジションに、自分が立ちたいと願った。



「鞠、もう少し顔、あげて」
「う……も、無理……恥ずかしいっ」
「えー(可愛い……)」



 今まで見てきたどんな女の子よりも、鞠が一番というように右の手のひらを彼女の頬に添える。

 一瞬ぴくりと反応した瞼が、もう一度しっかりと開いて新を見つめた。

 その上目遣いに、今度は新が眩暈を覚えて顔を背ける。



「待っ、え、やばい……」
「え、な、なに?」



 すると、耳まで真っ赤にして余裕のない表情の新が、鞠の視界に映り込んだ。

 

「俺、すっごく緊張してる……」
「……新くんも、緊張するんだ?」
「するよ。鞠とキスするんだよ、するに決まってる……」



 そう言いながら深呼吸をする新を見て、鞠は親近感を覚えたと同時に。
 たまらなく大きな愛おしさが込み上げてきて、胸の奥をギュッと締め付けられた。



「……早く、奪ってほしいよ……」
「っど、どこで覚えたのその煽り方……」
「違うよ、私も恥ず……ん」



 大事な大事な、一生に一度しか経験できないファーストキスは。
 自分が自分じゃなくなるくらい夢中になれる大好きな鞠と。
 見つめ合い、心を通わせて、幸福感に包まれながら――。

 今、ようやく交わされた。


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