新くんはファーストキスを奪いたい
やはり二日目も出店終了時刻の正午より前に材料が尽きた一組のクレープ屋さんは、早々に片付けをはじめる。
ずっとクレープを作り続けていた新はやっと休憩時間ができたので、一人飲み物を買いに自動販売機前にいた。
そこで水と麦茶どっちを飲もうか悩んでいた時、後ろから声をかけられる。
「新、今ちょっといい?」
その台詞は今まで何度も聞かされた。そして決まってこの後告白されるパターンであることを新は知っていた。
しかし、振り向いた新の前にいたのは。
入学早々告白をしてきた他クラスのゆるふわな女子と、学祭準備期間中に告白された紗耶。
そして、同じクラスで昨日告白を断ったばかりの果歩だった。
「え、何……逆襲?」
「違うわよ! 私たち、その……今日は新に謝りたくてきたの」
「は?」
「昨日は、噂を鵜呑みにして嫌な思いさせて、ごめん……」
代表者としてまずは果歩が新に謝罪する中、背後の二人も申し訳ないように眉を下げていて不気味なほどに大人しい。
三人とも、告白を断られた後にキスを願い出ていたが、もちろん新はそれも断っていた。
しかし直近である果歩の告白を断る日まで、噂が生き続けていたということは。
きっと背後の二人は、自分のプライドを守るために「新とキスした」と嘘の情報を流していたのだろう。
その謝罪をするために再度新の前に現れた。
「嘘ついて、新くんを困らせてごめんなさい」
「私も、自分勝手な優越感を優先して新に迷惑かけた、ほんとごめん……」
他クラスのゆるふわ女子はオドオドと震えながら、そして紗耶は後ろめたさから視線を少し落として謝る。
噂の存在自体を果歩の口から最近知ったばかりの新は、どこか他人事のようにぽかんとしていて。
二人の謝罪の後に、果歩が不満そうに突っ込む。
「いやいや、新からもなんか言ってよ」
「あーうん、別に特には」
「はあ?」
「嘘はよくないけど、みんな一度は俺を好きになってくれた人だから」
「そ、それはそうだけど……」
そういう果歩も、まだ新への想いが吹っ切れたわけではなくて、少し恥じらいをみせた時。
今度は新が口元を隠し、昨日交わした鞠とのキスを思い出しながら照れくさそうに話す。