新くんはファーストキスを奪いたい
人生で初めての失恋を経験した翌日。
鞠はいつもより二本早い時間の電車に乗って通学中だった。
朝が弱くて遅い時間に飛び乗ることはあっても、早い時間の電車に乗ることなんて滅多にない。
それでも今日は、よっぽど北斗と同じ電車に乗りたくなかったのか、避けるように早起きが出来てしまった。
昨日よりも少し空いている車内は、鞠の心を表すように寂しい雰囲気を漂わせていて。
それがまた、抱えたばかりの傷心を抉ってくる。
(はあ、私のファーストキスはいつになるのやら……)
好きな人とのキスを夢見ていた鞠。
もっと早くに北斗へ告白をしていたら、今頃はその願望が現実になっていたのだろうか。
昨日目撃した北斗のキスの相手を、自分になり得た可能性で妄想してみては首を横に振るを繰り返す。
(多分、告白できたとしても北斗にとって私は、ずっと幼馴染のままだ)
一晩考えて、ようやくわかった。
七年も幼馴染として一緒にいたのに、恋愛に発展することのなかった自分たちの関係。
片方に恋愛感情が存在して、たとえその想いを届けられたとしても。
幼馴染の関係が覆されることはないと思った。
(今更気づくなんてね……)
この傷が癒えるまで、しばらくは勘付かれない程度に北斗との接触を避けなくては。
それが自分の身を守る手段であると考えた鞠は、電車に揺られながら降りる駅の到着を待った。