新くんはファーストキスを奪いたい



 体育館のステージ上では今、軽音部によるバンド演奏が最高潮に達していた。
 最近バズっているアーティストの曲が、屋外にも響き渡る。

 二日間、クレープ屋さんの運営を一丸となって頑張った一組の生徒たちも観客席で盛り上がっていて。
 その中には恭平と梨田の姿もあり、楽しげにステージへと視線を向けている。

 しかし、鞠と新の姿だけはなくて、それについて誰も疑問視していない。

 また、“美化委員活動”という口実を使って二人で抜け出したらしい。





「新くん、佐渡委員長に呼び出されたんじゃないの?」
「どうだったかな? それよりちょっとここで休憩しようよ」
「最近、こういうパターン続いてるね」
「そうでもしないと二人きりになれないから」
「っ……」



 悪びれる様子もない新は、鞠を連れ図書館のドアを開き中へと入っていく。

 今頃は軽音部の演奏を楽しんでいる図書係りの生徒も、やはり受付にはいなくて。
 二人きりの図書室は、微かに音楽が届く程度の静けさだった。



「まーり、こっちこっち」



 奥の方に進むと見えてくる、並べられた読書用の長机と椅子。
 その一つの座席に腰を下ろした新が鞠に手招きする。

 少し緊張しながらも、何か期待してしまう気持ちを抑えて隣に座った鞠は、ちらりと新を見た。

 すると、ただただ頬杖をついて自分のことを見つめてくる“俳優のようなイケメン”に、思わず声が裏返る。



「ひょ、読みたい本探しに」
「鞠、目閉じて」
「え、なんで……?」
「なんでって、それは、ねぇ?」



 にこにこと上機嫌な笑みを浮かべる新の頬に「キスしたい」という幻の文字が浮かび上がっていた。
 心の準備がもう少し必要な鞠が、耳まで紅潮させて両手でタイムのジェスチャーをする。

 しかしその手首を掴まれ開かれると、簡単に唇への距離を詰められた。


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