新くんはファーストキスを奪いたい
『アイツと仲良くすんのやめたら?』
あの雨の日に言われたセリフが蘇って、鞠の心が萎縮する。
すると北斗と唯子を見るや否や、新は大きなため息をついて苦言を呈した。
「図書室はいちゃいちゃする場所ではありませんが?」
「一条が言うな。ここでなにしてたんだよ」
「読書」
「本持ってないだろ」
「図書室だからお静かに」
「はぐらかしたな」
互いに良い印象を持っていなかったはずの二人が、知らない間に気兼ねなく会話をするまでになっていて。
呆気に取られている鞠に気づいた唯子が、さりげなく説明してあげた。
「この二人、昨日ちょっと話す機会があって」
「そ、そうだったの?」
「まあ、まだ仲良しとまではいかないけどね〜」
「そっか……」
北斗はたとえ彼女持ちだとしても喧嘩をしたとしても、鞠にとって大事な幼馴染に変わりはないから。
晴れて自分と想いが通じ合い、彼氏となった新の良いところを。
ゆっくりでいいから、北斗にも伝わると良いなと鞠は願った。
するとニヤニヤした唯子は、鞠とその隣の新に問いかける。
「それよりぃ、お二人はついに?」
「え! えーと……」
「そう、正式に彼氏彼女」
「きゃーやったじゃん新!」
そう言って新の背中をバシンと叩いた唯子は、喜びを爆発させていた。
何の躊躇もなく自慢げに答えたのち、背中を痛めてしまった新にとっても。
みんなに言いふらしたいほどに嬉しいことなんだと窺えて、鞠は隣で頬を染める。
そこへ新と鞠の仲を昨日までは反対していた北斗が、静かに呟いた。
「良かったな、鞠」
「え、うん。ありがと……」
「あと、この前はごめん」
鞠と新との交際を認めただけでなく、雨の日のことも謝罪してきた北斗。
その心境の変化を発生させたワケを知りたくて、声をかけようとしたが。
北斗は鞠に背を向け唯子に退出を促す。