新くんはファーストキスを奪いたい
強引にここまで連れてこられた鞠は、その間無言を貫いていた新に不安を覚えていた。
昨日の態度に対するお叱りか。
はたまた不細工な泣き顔への嫌味な感想でも述べられるのかと、心を震わせていた時。
「これ、三石さんのでしょ」
「あ、メモ帳……?」
「昨日拾い忘れていたよ」
差し出された目の前の花柄のメモ帳は紛れもなく鞠の物で。
ただこれを渡すためだけに声をかけられたんだとわかり、ホッとした。
静かにメモ帳を受け取って、すっかり安堵の表情を浮かべる鞠だったが。
大事なことに気がついた途端、一気に青ざめていく。
「ん? えと、あれ?」
「何?」
「一条くん、このメモ帳の中身って、見……見た?」
確か昨日の昼休みに、北斗への告白方法をメモ帳に書き出した。
その部分を捨てた記憶のない鞠は、まだこの中に記されていると確信していて。
恐る恐る新の顔に視線を向ける。
どうか「見ていない」と言って動いてほしかった、その口元は。
「“電話、メール……”」
「えっ」
「“好きな人とのファーストキスを実現させる”」
「っっ⁉︎」
「三石さんって、キス未経験なんだ?」
「〜〜!」
無表情で淡々と話す新の言葉に顔を真っ赤にした鞠は。
そんなこと書いたっけ?とメモ帳のページを乱暴にめくっていく。
すると、告白方法を書き出した最後に強調するように『願望』がメモ書きされていて。
そのあまりに恥ずかしい一文を書いた昨日の自分を恨んだ。