新くんはファーストキスを奪いたい
すると、そんな鞠の態度に気がついた新の、いたずら心が珍しくうずうずして。
何を思ったのか、突然鞠の顎先に指を添え強制的に自分の方に顔を向けさせた。
そして不適な笑みを浮かべた顔を鞠の目の前に寄せると、柔らかそうな唇がゆっくり動く。
「どちらかというと俺、自分からグイグイ行きたい派」
「っ⁉︎」
なんてね、と砕けた口調で最後に付け加えた後、改めて鞠を視界に映す。
すると、潤んだ目を見開いて固まったままの、赤面する鞠がいた。
ファーストキス未経験の鞠にとって、こんなふうに異性に触れられることも唇を近距離に感じることも。
耐性がゼロなだけに、五感への衝撃は計り知れない。
その反応に新自身も、やりすぎてしまったと感じて謝ろうとした時。
ふと我に返った鞠が鬼の形相で新を睨んだ。
「ちちち調子に乗るな!」
鞠の意外な大声にびくりと体を驚かせた新。
そして謝罪する間も与えないまま、怒った鞠は階段を駆け下りて教室へと戻っていった。
しんと静まり返った階段の踊り場。
生徒たちの朝の会話が遠くに聞こえる中、新の心の中で一つだけ芽吹いたものがあった。
「え、可愛……」
まだ恋と呼ぶには未完成で、だけど探究心は存在していて。
“俳優のようなイケメン”こと一条新が初めて、興味の湧いた女の子として認定された鞠。
しかし、教室に到着したばかりの本人はというと。
(モテモテイケメン嫌いだー! おもちゃにされたー!)
そう心の中で嘆いていて、新の事を苦手認定していた。