新くんはファーストキスを奪いたい



 帰りのSHRが終わり、生徒達は各々の帰宅手段で校舎を後にする。

 自転車通学の者は駐輪場に向かい、颯爽と風に乗り。
 バス通学の者は、校門を出て直ぐのところにある停留所に列を成す。

 そして鞠のような電車通学の者は、歩いて五分ほどのところにある駅まで続く道を歩く。


 なんだか今日はいつにも増して、疲労感に襲われていた鞠。
 その表情からは珍しく不機嫌さも滲み出ていて、駅までの道を力無く歩いていた。

 原因はいくつもあるが、直近で疲れたことと言えば。
 休み時間になるたびにクラスの女子達が代わる代わる鞠に話しかけてきたから。
 しかも、その内容はどれも同じようなもので。



『委員会の日、代理が必要な時は一番に声かけてね』
『三石さんが参加できない時は私が代わりに出ておくから』



 そんなに美化委員がやりたいなら直ぐに挙手して欲しかった。
 しかし彼女らは決して美化委員がやりたいのではなく、“新”と同じ委員会なら何でも良いのだ。



(まあ、みんな一条くんと少しでも一緒にいたいんだもんね)



 かく言う鞠も交通が便利という理由以外に、北斗が通う高校だからこの学校を選んだと言っても過言ではなく。
 自分も同類だなーと飽きれていると、いつの間にか駅に到着した。

 北斗への想いは届かなくて、憧れのファーストキスも遠のいた。
 また新しく好きな人ができる保証もないし、いつまでも北斗を思い続けるのも現実的ではない。



(新しい恋、かぁ〜)



 ホームで電車を待ちながら考えていると。
 ふと思い浮かんだのは、何故か今朝階段の踊り場で急接近してきた、新の整いすぎた顔面。



(ふぁ⁉︎)



 あまりに唐突すぎて頬を赤らめた鞠は、思い切り首を横に振り脳内から記憶を追い出そうと努めた。


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