新くんはファーストキスを奪いたい
全くの論外、住む世界が違いすぎる新なんて、その対象になるわけがないのに。
俳優のようなイケメンというだけあって、近くに寄られると心臓がドキドキと反応したのは事実。
この凡人の自分にも効果が表れていることは、素直に受け入れざるを得なかった。
(そう、だから一条くんは私にとって危険人物!)
調子が狂わされるという意味で、新への警戒は怠らないよう決心していた時。
ホーム内に電車が到着してきたので、いつも通りに乗り込んだ。
車内は同じ高校の生徒もいれば、違う制服を着た高校生もいて。
帰宅時間だから当然ではあるが、学生が大半を占めていた。
電車はゆっくりと発車して、アナウンスを流しながら次の駅へと向かう。
座席はびっしり埋まり、空いている吊り革も僅か。
そんな中で近くにあった手すり棒を掴んだ鞠は、今朝の出来事をもう一度よく考えてみた。
昨日落とした後に拾い損ねた、花柄のメモ帳。
鞠のものだと知っていたのは、あの場面にいた新だけ。
でも、名前が書いていないあのメモ帳を、放っておいても自分に害はない。
仮に他の人に拾われて中身を見られても、鞠のものとは思わないだろう。
だけど新はわざわざそのメモ帳を拾い、一晩預かり。
そして翌日、持ち主の鞠に律儀に返してきてくれた。
中身を見たことによって、大切なものだと察した?
あのメモ帳がないと、鞠が困るかもしれないと考えた?
一つ目の駅に到着した電車が、プシューと音を鳴らしてゆっくりとドアを開く。
乗り降りをする乗客を背後に感じながら、鞠は重要なことを思い出した。