新くんはファーストキスを奪いたい
高校から二つ先の駅に降りた鞠は、あまり訪れたことのない駅前の景色に戸惑いつつも。
同時に高揚した気分も抱いていて、その足取りは軽かった。
学校で味わった疲労感が、少しずつ紛れていくのがわかったし。
何より、大好物のクレープという甘い食べ物が、鞠の疲れた体を癒してくれると信じていた。
(しかもオープンしたばかり。楽しみー!)
電車を乗り間違えることがなければ、こんな展開にはならなかった。
一つのミスがこの地に導いてくれたんだと運命を感じて、颯爽と駅の改札を出る。
そして駅から歩いて数分のフードエリア街にある、クレープ屋を目指して歩き始めた時。
「鞠?」
「北斗っ……!」
背後から名前を呼ばれて振り向くと、こんな逆方向の駅で会うはずのない北斗と。
隣には、鎖骨まで伸びたボヘアブに猫目が凛々しくてつい見惚れるほどの、同じ制服を着た美人な女子高生。
直感的に、この子が彼女だとわかってしまったと同時に。
昨日目撃した北斗のキスのお相手の顔を、望んでいないのに知ることになった自分を憐れんだ。
「お前なんでこんなところに」
「ほ、北斗の方こそ」
「俺は……」
そう言いかけて隣に目を向けた北斗は、彼女の様子を窺っていた。
なるほど。北斗が逆方向のこの駅にいたのは、彼女が関係していると鞠は理解した。
そして、予想どおりの返事が返ってくる。
「同じクラスの、彼女の地元」
「……へぇ、彼女できたの、おめでと」
北斗の口から初めて聞いた“彼女”という言葉。
何だかそれが、心に傷をチクチク作ってくるのは。
北斗の彼女になりたかった鞠が、彼女になれなかった現実を突きつけられたから。
しかし北斗の彼女は、鞠がそんな想いを抱いているとも知らず。
明るく気さくに話しかけてきた。