新くんはファーストキスを奪いたい
驚いた表情のまま鞠が顔を上げると、そこには自分の体を支えてくれていた新の姿があった。
「いい、一条くん⁉︎」
「三石さん、何でここに?」
そう尋ねる割には、あまり顔に感情が出ていない新。
どちらかというと、今朝下駄箱前で同じような状況を目にした北斗の方が驚いていた。
そして唯子はというと、少し面倒そうな表情を浮かべて臆することなく新に話しかける。
「ちょっと新、鞠ちゃんと話してたのに邪魔しないでよ」
「あ、唯子もいたの?」
「いたよずっと! これから三人でクレープ食べに行くんだから」
行くとは言っていなかったのに、三人でクレープ屋に向かうことで話が決まりそうだった。
そして新をこのメンバーには加えたくない様子の唯子が、しっしと追い払おうとする。
どうやら二人は知り合いのようで、新も負けじと鞠の肩を引き寄せた。
「俺と三石さんで行く約束だから。クレープ」
「⁉︎」
張本人の意思を無視した新と唯子の会話は鞠を絶句に追い込み、おまけに北斗を唖然とさせた。
ただ、新の一声は今の鞠にとって。
縋りたくなるような救いの手のようにも思えたから。
「そ、そうなの! 一条くんと行く約束だったの!」
「鞠ちゃん嘘でしょ、こんな男と……?」
「同じクラスなの一条くんと! ね!」
新の本性を知っているような口ぶりで、鞠を心配そうに見つめる唯子と。
そして相変わらず、鞠に対し少々強引な行動をとり続けている新に、北斗は複雑な心境を抱えた。
「そういうことだから北斗、デートの邪魔してごめんね! 一条くん行こう!」
「……じゃ」
この場を立ち去りたい一心で一芝居打った鞠は、
新の背中を押しながらクレープ屋のある方向へと急ぎ足を進めた。