新くんはファーストキスを奪いたい
内心、冷や汗と心拍数を上昇させながらも何とか乗り切ることができた。
そしてそれは、偶然居合わせた新のおかげであることも認めざるを得ない。
北斗と唯子の姿が見えなくなり、角を曲がったところで歩みを止めた鞠は。
新の背中から手を離して深々と頭を下げた。
「本っ当にありがとう!」
「三石さん?」
「一条くんがいなかったら、さっきの二人とクレープを食べるという地獄を味わうところだったよ」
「地獄なんだ、あの二人とのクレープは」
鞠にとって、北斗と唯子が遠ざけたい存在であることがわかったと同時に。
裏を返せば二人より自分の存在の方がマシとだということも知り、少しだけ新の機嫌が良くなった。
「……それと今朝の、メモ帳の件もちゃんとお礼言ってなくてごめんなさい」
「別にいいのに」
「拾ってくれたのが一条くんで良かった、本当にどうもありがとう」
「っ……うん」
「って、今日は一条くんに助けられてばかりだね私」
眉毛を下げて照れ笑いを見せた鞠の、素直な表情が新の瞳に鮮明に映る。
そしてその笑顔は、脳内に深く深く刻まれた。
初めはそこまで関わるつもりはなかったはずなのに、昨日突然視界に飛び込んできた泣き顔がきっかけで。
メモ帳の中身を読んでしまってからは、その健気で純粋そうな心に少し関わってみたくなった。
そして今は、どこかで共通点や繋がりを探しては欲しくなる。
知りたい触れてみたいと思うのは、自然なこと。健全な証拠。