新くんはファーストキスを奪いたい
「お前、しっかりしてそうに見えて朝弱いもんな」
「う、今日はたまたまだから」
「いつか遅刻するに一票」
「そんなの投じないで……」
会話を交わすだけで、二人の仲の良さは周囲の誰もが気づく。
一週間前、親同伴で入学式を済ませたばかりの二人は、少しずつ高校生活に慣れ始めていた。
新一年生の部活動はまだ本格的に開始された時期ではない中、
北斗はバスケ部への仮入部届を先週末に提出していて、体が鈍らないようにと放課後特別に練習参加している。
そして鞠は明日のHRで決める事になる委員会への所属を悩んでいた。
加えて、残念ながら北斗と別々のクラスになった事に、少し焦りを覚えている最中だ。
中学の後半から一気に背が伸びて男らしく成長した北斗は、地元では元気な少年のイメージが根強くても。
高校の中では、もしかしてモテる部類なのでは?と心配せずにはいられなくなった。
ただ、鞠の恋心には全く勘づきもしない上に、新クラスで楽しく過ごす鈍感な男の子でもある。
おまけに部活に忙しいし、男女隔てなく付き合える精神。
そんな性格をイライラ、ハラハラせずに付き合える女の子はきっと、少ないとも考えた。
なのに入学から一週間経って気付いた。
最近の北斗が以前より、浮かれているような、幸せそうな雰囲気を纏うようになっていたから。
“いつも通り”の中にもそんな空気を醸し出して雑談する横顔を眺めながら、鞠が少し寂しい瞳を見せた時。
突然、北斗が人づてで聞いた話を切り出す。
「そういや鞠のクラスにイケメン俳優いるってほんと?」
「え? いや、いないけど」
「あれ? でもクラスの奴がそんな話を」
「……俳優のようなイケメン、ならいる」
「それだ!」
拳を手のひらに打ち付けて北斗が納得を示すと、
高校方面に向かう電車がホームに到着して、突風を起こし肩まで伸びた鞠の髪を勢いよく揺らした。
会話は一旦休み。定位置に停まった電車のドアが開くと下車する人を待った。
しかしそれはごく少人数で、鞠と北斗のように乗り込む人の方が断然多い。