新くんはファーストキスを奪いたい
やがて、定休日の店内は甘くて香ばしい匂いが充満してきて。
今にも涎が滴り落ちそうになるのを、鞠は必死に我慢した。
「はい、出来上がり」
「え、わあ、すご……!」
カウンターに座っていた鞠の目の前に置かれた、クレープスタンド。
そこには甘い匂いを放った焼き具合の完璧な生地に、生クリームといちごが優しく包まれたクレープが立てられていた。
新の作ったクレープが、お店で注文した時に出てくるクレープのような外見をしていて。
思わず感動した鞠は、スマホを取り出してあらゆる角度から撮影を始めた。
「……食べないの?」
「あ、ごめん食べる食べる、けど何だか勿体無いから記念に写真を」
「そこまでしなくても」
「だって一条くんが作ったんだよ? すっごく貴重なクレープなんだから」
多分学校の女子たちが喉から手が出るほどに欲しい、そして食べたい手作りクレープ。
それを今は自分だけが独り占めしていることに、罪悪感と優越感の半々が支配してくる。
こんな機会二度とないと撮影を続けていると、何か言いたげな新は片付け作業をしながら。
クレープに夢中な鞠の姿を、じっと見つめていた。
素人の作った普通のクレープなのに、そんなふうに喜びと感動を表現してくれるなら……。
「また作ってあげられるし」
「へ?」
「食べたくなったらいつでも言って」
少し照れくさそうにしながらも、鞠の目を見てはっきりと伝えた新。
しかし、その渾身の言葉の意味をあまり理解していなかった鞠はというと。
「え〜いいよいいよ大変そうだし」
「……(そうきたか)」
「それに今度はちゃんと営業中にくるから」
へらっと笑って見せた鞠は、スマホをカウンターに置くと、ようやく「いただきます」と手を合わせたのち、クレープを頬張った。
口の中に広がる生クリームの甘い香りに、苺の酸味が加わって悶えるほどに美味しい。
「ん〜〜っしあわせ」
「俺の作ったクレープ、三石さんを幸せにするほど美味しい?」
「もちろん、美味しすぎてほっぺ落ちる〜」
片頬に手を添えながら、満足げにクレープを頬張り続ける鞠。
そうして半分ほどがなくなった時、ふと片付け作業をする新に質問した。