新くんはファーストキスを奪いたい
店を出ると既に夕焼け空が広がり、辺りは鮮やかなオレンジ色に染まっていた。
片付けを終えた新とそれを手伝った鞠も、その色の世界に溶け込むと、店先で手を振る椛に見送られる。
「鞠ちゃん、またおいで〜!」
「はい! 今日はありがとうございました」
「新! ちゃんと送るのよ!」
「わかってるよ」
いつの間にか鞠を名前で呼ぶようになった姉の指示に対して、言われなくてもそのつもりの新は目を細めて応える。
そして鞠は深々とお辞儀をすると、帰宅のために新と並んで駅へと歩き出した。
「ごめんね、見送りまでしてもらって……」
「家こっち方面だから気にしないで」
「一条くんてお姉さんと仲良しなんだね」
「十歳離れてるから、昔よく面倒みてもらっていたせいだよ」
ツイていないと思っていた鞠の今日は、不思議な一日へと変化した。
常に輪の中心にいて近寄り難いイケメンの新と一気に距離を縮められて、こうして普通に会話をして並んで歩いているのだから。
その端々で優しく微笑む新からはほのかに甘い匂いがして、その理由を知っている鞠もまた自然と笑みが溢れた。
「今日ね、本当は電車乗り間違えたんだ。でもそのおかげで一条くんのクレープ食べることになったから、何かすごいよね」
「そうだったの? 俺も三石さんにクレープ作ることになるなんて思ってもなかった」
「ふふ。これからは委員会も一緒だし、改めてよろしくね一条くん」
今朝、学校で『調子乗るな!』と言い放った鞠は、そのお相手の新とこんなにも和やかな時間を過ごすとは想像もしていなくて。
新となら委員会も頑張れそうな気がして微笑んだ。
すると、先ほどからずっと胸に引っかかっていたものを楽にしたくて、新がもう一つの提案を口にする。