新くんはファーストキスを奪いたい



「あのさ、俺も下の名前で呼んでいい?」
「え?」
「姉ちゃんも呼んでたし、よく話す友達は大抵下の名前だから」
「そっか、うん一条くんが呼びやすい方で良いよ」



 少し驚きながらも快諾した鞠は、新が自分のことを“よく話す友達”にカテゴライズしたことには不安がよぎった。

 別にやましいことはないし、ただのクラスメイトとして親交を深めることは大事。
 しかし必要以上に仲良くするのも、周囲の視線が気になってしまうから。

 なるべく二人の時限定で、と条件を付け加えようとしたその時。



「鞠」
「っ……⁉︎」
「まり、まーり」
「よ、呼びすぎじゃない?」



 段階を踏んで先ずは“ちゃん付け”かと思っていたら、新の声と澄んだ瞳でさらっと名前を呼ばれ一瞬胸が高鳴った。
 毎回こんな感じで呼ばれるなんて、心臓がいくつあっても足りない上に、慣れる気がしない。


 
「ほら練習、鞠も俺を呼んでみて」
「え! 私も一条くんを名前で呼ぶの⁉︎」
「もちろん、さんはい」
「…………新、くん」
「……ま、いっか」
「え? どういう意味」



 控えめに下の名前は呼んだものの、“くん付け”だったことに少々不満気味の新。
 唯子の彼氏、つまり北斗のことは呼び捨てだったのを目撃していただけに、その差を思い知らされた。



「あ、ここでいいよ。ありがとう」
「……わかった、気をつけて」



 改札口前で立ち止まった鞠は、ここまで付き添い送ってくれた新に手を振るも。
 まだ何か言いたげな新は手を振り返してはくれず、どうしたんだろうと首を傾げた。


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