新くんはファーストキスを奪いたい
「鞠、お前……」
「なに?」
「彼氏できたの?」
「はい⁉︎」
何故そんな質問をしてきたのかさっぱりわからない鞠が、血相を変えて振り向いた。
すると北斗の視線が新に移ったのが確認できて、何となく理由を察する。
「できてないし、てか余計なお世話!」
「ああ、そっかごめん」
「じゃあね」
相変わらず無神経な事を聞いてくる北斗に、少し冷たく返事をした鞠。
ただ、今の一言で自分と新に何もないことが伝わっていれば、口止め依頼のメールをするより疑いが晴れる気がした。
再び背を向けた鞠と、それに並んで歩く新の後ろ姿を見つめながら、複雑な心境を抱えた北斗。
でもその理由も、感情の名称もはっきりしなくて胸中がもやもやするばかり。
すると、唯子が北斗を安心させるように声をかけた。
「新と鞠ちゃんは、多分北斗の思ってる関係ではない気がするよ?」
「いや……うん、そんなわけない気はしてるんだけど、昨日も一緒にいたから」
「まあ確かにね。鞠ちゃん心配?」
「うーん……心配、なのかも」
入学して一週間以上が経ち、クラスの違う新の噂は北斗の耳にも入っていた。
男女ともに分け隔てなく交流できる割には、女子と一緒にいるところの方が良く見るし。
先日も誰かに告白されて、さらりと振ったらしいし。
思わせぶりな態度や言動がある男なんじゃないか?という疑念が湧く。
だからもしも、それに鞠が惑わされているとしたら、傷つく事が目に見えるから。
「唯子、あの新って人。中学ではどんなだった?」
「うーん、今と変わらないよ。知らないうちにハーレムできてる」
「……つまり、女の子の扱いは慣れてる?」
「まあ、北斗よりはね〜」
彼女である唯子のストレートな言葉に少し落ち込みを見せる北斗だったが、
思ったままを口にするのも唯子の良いところ。
加えて、その後には必ずフォローがあるところも。
「でも私は、そんな北斗の方が好きだよ」
「ゆ、唯子〜」
「はいはい、とりあえず教室戻ろうねー」
そうして唯子に宥められながら、解決しない感情に蓋をしたままの北斗は教室へと戻った。