新くんはファーストキスを奪いたい



 着替えを終えた鞠が教室へ戻ると、先に到着していた新は既にクラスメイトに囲まれていて、いつもの光景がそこにあった。


 自習時間を良いことに各々が好きなように過ごす教室内。
 そこで自分の席に着いた鞠は、次の授業の数学で当てられるであろう問題を解くことに決めて、ノートを開く。

 すると突然、後ろから肩を突かれ声をかけられた。



「三石さん、もしや次当てられる問題やってる?」
「あ、うん……光島(みつしま)くんも?」
「そうなんだよ、でも全然わかんなくて」



 後ろの席に座る光島(みつしま)恭平(きょうへい)は、出席番号順で鞠の次に当たるクラスメイト。
 自然な茶色のスパイキーショートヘアと目尻がキリッと吊った瞳に加え、無邪気な笑顔が眩しくて陽キャオーラを放つ。

 そんな彼もまた、次の数学で鞠と同じように問題を当てられる予感がしていて、机の上に教科書を開いていた。

 しかしその隣に置かれたノートはまっさらで、だいぶ苦戦している様子。



「高校入ってまた一段と難しくなったよな、数学」
「私もそう思う。数学苦手だからますますわかんなくて……」
「あーなんかもう数字ばっか見過ぎてゲシュタルト崩壊してるわ」
「ははは、じゃあ一旦教科書見るのやめよっか」



 鞠がそう提案すると、早速瞼を閉じて深呼吸した素直な恭平。
 そしてカッと目を見開いたと思ったら、くしゃっと柔らかい笑顔が咲いた。



「よし! もう一回頑張るか!」
「そうだね、ギリギリまで頑張ろ!」



 もうすぐ自習時間が終わり、十分休憩を挟んで数学の授業が開始される。
 それまでに何とか問題を解いておきたい二人は、笑顔を交わして熱心に自習していた。


 その二人の様子を離れた自席から眺めていた新は、仲間に囲まれながらも会話には参加していなくて。
 何か考えるように頬杖をつき、胸の内のざわめきを落ち着かせるため静かにため息を漏らした。


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