新くんはファーストキスを奪いたい
昼休み時間を迎えて、机に自分の弁当を広げた鞠。
未だ特定のお友達は出来ず、焦りはするもののきっかけが掴めなくて本日もぼっちランチ。
今頃隣のクラスの北斗は彼女の唯子と楽しく昼食を食べているんだろうなと考えると、グッと失恋の痛みが蘇るので。
軽く首を振り、すぐに気持ちを切り替えた時。
机にトンと置かれたのは、購買で買う事ができるストロー付き紙パックのいちごオレ。
「え……光島くんどうしたのこれ?」
「数学ん時のお礼! あ、いちごオレ嫌い?」
「ううん好きだよ、でもなんで?」
鞠に問われると、自分の席に着いて購買で買ってきたばかりの焼きそばパンの袋を開けた恭平が理由を説明した。
「当てられた数学の問題、無事正解の回答できたから」
「それは光島くんが……」
「三石さんも一緒に解いてくれたじゃん」
数時間前の自習時間が終わった時。
未だ問題が解けていなかった恭平に鞠が付き添って、休憩時間を使い二人で悩み抜いて出した回答。
それが次の数学の授業で、きちんと答えられた上に正解だったから。
そのお礼が、目の前に置かれたいちごオレだ。
わざわざ自分のために買ってきてくれた恭平に対して、その律儀な思いに応えなくてはと。
鞠はいちごオレを丁重に受け取った。
「ありがとう、いただきます」
「うん、またよろしくね」
「え、もしかしてこれ賄賂だった?」
「あ? んー半々?」
「ふふ、何それ」
冗談なのか本気なのか微妙な雰囲気で答えた恭平に、つい笑い声が漏れた。
その気兼ねなく話せる鞠に、恭平も自然と微笑みながら焼きそばパンを頬張る。
特定の友達はできなくても、クラスメイトとはこうしてそれとなく仲良く交流できている。
自分のペースで楽しく過ごせているなら、焦る必要もないかな?と鞠は考えるようになった。
すると、着席している二人に人影が落ちて鞠がふと顔を上げると、不穏なオーラを放った新が立っていた。