新くんはファーストキスを奪いたい
「あ、新くん……どうしたの?」
クラスメイトの視線を気にしつつ鞠が小声で問いかけるも、無反応な新に不安が募る。
しかし恭平はそんな新を気にすることなく、鞠におねだりしてきた。
「何だよ〜俺も下の名前で呼んでよ」
「え? じゃあ、恭平くん」
「うんうん、その方が親密度上がる! よろしく鞠ちゃん」
さらりと下の名前を呼び笑顔を浮かべる恭平に対して、鞠も自然と目尻を下げる。
目の前で繰り広げられた親しげな会話にも嫌悪感を示した新は、恭平の隣席の無人椅子を借りて乱暴に座った。
「一つお前に言っておく」
「何だよ、新」
(ん? 二人は知り合いなの?)
お前呼ばわりされた新へ特に怒るわけでもなく、むしろ微笑んで余裕の表情を浮かべる恭平。
その様子から、二人は高校で出会う前からの知り合いなのかもしれないと勘ぐった鞠が、不安そうに眺めていた時。
「姉ちゃんが、採用だって」
「マジで⁉︎ やったー!」
(??)
不穏な空気は恭平の歓喜の声で一変した。
新の姉である椛が“採用”するということは、昨日行ったクレープ店に関すること?
少しずつ見えてきそうな二人の親密度に、鞠は目を丸くして恭平に尋ねてみた。
「採用って、もしかして椛さんのお店で働くの?」
「うん! 調理はできないけどホールスタッフとしてバイト、って鞠ちゃん新の姉ちゃん知ってんの?」
「あ、うん……」
「へ〜、ふ〜ん?」
そう言いながら新の顔を確認する恭平に、こっち見るなと不快感を表しながら。
不明点が多いであろう鞠のために、新が自ら丁寧に説明してくれた。
「俺たち昔から近所に住んでて、家族ぐるみの付き合いあるんだ」
「そうなんだ、二人は幼馴染だったんだね」
「いや、ただの腐れ縁だから」
恭平との関係を“幼馴染”にはしたくないらしく、即答した新に恭平も同意見のように首を縦に振る。