新くんはファーストキスを奪いたい
しかし、こんな顔の整い過ぎた二人が近所に住んでいれば、地元の同級生からは注目の的だっただろうなと想像した。
更にあの綺麗なお姉さんの椛が加わると、なんというか。
「最強だ……」
「鞠?」
「あ! な、何でもない」
つい心の声が漏れた鞠が慌てて誤魔化した時、突然新の背後から顔を出した他クラスの女子が乱入してきた。
そして着席していた新の肩に馴れ馴れしく自分の腕を絡ませ、猫撫で声で話しかける。
「あーらた、あっちの席で一緒にお昼ご飯食べようよ〜?」
「あ、うんわかったよ」
「ほら行こ行こ、早く〜」
渋々立ち上がった新が、女子に腕を引かれながらその場を離れていく中。
鞠と恭平は「大変だなぁ」という気持ちで新の背中を見つめていた。
「新も嫌なら断ればいいのに」
「え? 嫌がってるの?」
「本当はああやってグループに属すのも、触れられるのもあまり好きじゃないはず」
「……へぇ」
自分の席に戻った新は、数人の明るい生徒たちに囲まれて持参の弁当を食べ始める。
黙々と咀嚼するその姿は、特別嫌がっているようには見えなかったが、鞠には思い当たる節があった。
以前にも見た、女子からの質問に面倒そうにしながらも律儀に一つずつ答えていく新。
「きっと、誰も傷つけないように配慮してるんだね」
「……鞠ちゃん、よくわかったね」
「な、何となくそう思っただけだよ」
「でも告白された時はきっぱり振って関係断ってるから、あいつ」
あくまで友人として自分に近付いてくる分にはあの程度の交流はするものの。
好意を露わにした瞬間、二度と近付くことができないくらいに関係を断つ。
それが新のやり方だと恭平から教わった鞠は。
先日新に告白しようと呼び出していた他クラスの女子が、新の周辺で見ないことに気がつく。
(そういうことだったんだ……)
告白して振られたら、友達には戻れない。
ちゃんと自分の中で線引きしている新は、やはり流されるまま交流しているわけではないとわかった。
しっかりしているというか、ある意味残酷というか。
新の傍にいることで好きになってしまっても、彼から好意を寄せられていなければ実ることはない。
(新くんのことを好きな女子は、友達のままの方が長く一緒にいられるってことなんだ)
未だ無関心そうな新に笑顔で話しかける女子達を眺めながら、鞠はそう結論づけた。